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南大和病院 外観


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南大和病院 泌尿器科部長 
松本太郎先生
2024年2月

<勤務医通信 第3回 2024/2>

「私の前立腺肥大症内視鏡手術遍歴」

南大和病院 泌尿器科部長 
松本太郎

 私は南大和病院という、神奈川県大和市の南部に位置する病院で泌尿器科医として勤務しております。病院の最寄り駅は小田急江ノ島線の高座渋谷渋谷駅から徒歩で510分程度所に位置しています。当コラムの前回の投稿者が、僕の昔の友人であったことが縁で今回私に執筆依頼がありました。僕は大学受験の際に浪人を余儀なくされたのですが、その時に駿台予備校の市谷校というところで前回コラム投稿の砂押先生と一緒のクラスとなり、良く自習室や図書館などでも一緒に勉強していました。あれから24年程の月日が流れて、偶然にも同じ泌尿器科医として仕事をしているのですから不思議な感じがします。数多ある医師の専攻可能な科から同じ科を選び、同じ学会に所属していることで、久しぶりに202311月の札幌の東部総会の会期中に一緒にお酒を酌み交わしました。その後砂押先生よりメールを頂き、このコラムを書くに至りました。

 私は、泌尿器科の中でもとりわけ前立腺肥大症の治療に力を注いでおり、前立腺肥大症センターを当院に開設しております。近年は前立腺蒸散術(CVP)を中心として、twister laser/Xcavatorを尿道の太さによって使い分けて内視鏡手術を行っています。コラムの内容が仕事の話になるのは無粋かなと思いながらも、あまり自分の趣味的な事柄を挙げて書くのが恥ずかしい感じがすることと、結局前立腺肥大症の内視鏡手術が好きなこともあって、今回は自分の前立腺肥大症の内視鏡手術の変遷について書かせて頂くことにしました。自分よりも余程詳しかったり、実際の経験も上位の先生方も大勢居られるかと思いますので失礼致します。
 1999年に東京医科大学の泌尿器科学教室に入局をした頃、当時前立腺肥大症の手術といえばTUR-Pが中心でした。しかし、現在からでは考えられないぐらい出血を伴うため、TUR-Pを行った手術日の夜は夜通しで膀胱洗浄を繰り返したり、時に再手術でTUCを行わなければならないケースも1例や2例ではありませんでした。またサイズが大きい(80cc以上程度でしょうか)BPHに対しては開腹でRPPを施行していました。その後自己血輸血なる準備が可能となって、出血に対する準備が周到になり幾分精神的に楽にはなりましたが、やはり時に高度な出血を認めることが無くなりはしませんでした。当時は術後出血のコントロールに苦しむケースがあり、術後に留置するバルーンに500gの錘を括り付けてトラクションという止血目的の処置を行っていたのを懐かしく感じます。
 この状況を打開するべく、2013年頃から核出術に手術を移行させることに致しました。手術導入コストを最小限化するべくTUEBに移行し、かつ剥離した腺塊もすべてTURのループで細切してエバキュエーターで排出する方法を選択致しました。当時はまだTUEBが保険適応となる前のことで、TUR-Pとして保険請求を行っていたのを覚えています。TUEB導入後少しずつTUR-PからTUEBへ移行していきました。TUEBが形になってきてからは、前立腺動脈を12時・4時・8時の方向で先に焼灼してしまうため、出血が大幅に減りました。また手術後の治療効果もTUR-Pと比較して大幅に改善しました。その後2021年まではずっとTUEBでの前立腺肥大症の内視鏡手術に明け暮れたのですが、26Frのシースが日本人男性の尿道に対して過剰に太く感じることと、首尾よく核出出来た患者さんの中に失禁が続く方を認めたため、2021年よりCVPという前立腺蒸散術に移行致しました。
 最初CVPという手術の情報を入手した際には、手術時間の短縮や抗凝固剤内服中の患者さんでも施行可能な点に眼が行きましたが、手術を変更する決め手となったのは22.5Frと最も細いシースで施術可能な点でした。前立腺肥大症は改善したのに、術後尿道狭窄症を起こしてしまえば本末転倒になります。確かに核出術のゴッソリ内腺を繰り抜いたときの達成感や、術後の尿流測定の検査結果が途轍もなく改善するのを目の当たりにした時の満足感は自認しています。ただ、手術は我々泌尿器科医の満足のために行うものではないので、「患者本位に良い経過を如何に低リスクに届けることが出来るか」とういう観点で考え、CVPを選択しました。当院にCVPを導入するにあたって、長野県北信総合病院の平形先生・平塚のかとうクリニックの加藤先生・福岡山王病院の野村先生に手術見学を申し込み、皆さんにご快諾頂き、手解きを受けました。この場をお借りして心からお礼申し上げます。
 実際にCVPを導入してみると、本当に術後の血尿の程度が殆ど膀胱内灌流が不要に感じるぐらいの軽度な血尿か、場合によっては全く血尿を認めず、今日本当に手術をしたのかと疑いたくなる程に出血を認めません。また最初は半信半疑でしたが、実際に抗凝固剤・抗血小板薬を内服中の患者さんに施行しても何事もなく経過して退院されるケースを幾つも経験しました。出血の量がとても少ないため、リスクの軽減は想像していた以上のものと考えます。24年前からこれまで自分の行ってきた前立腺肥大症の手術の中で、大きな変化を目の当たりにして隔世の感があります。私も年齢が50歳を超え、自分も含めて社会も全てが変化し続けていて、こうした変化が今後もまた継続するのであろうと実感せずにはいられません。
 現在110例程を経過しておりますが、吸引デバイスを導入したことで一層の蒸散が可能となり治療効果の改善を実感しております。泌尿器科の諸先生方には釈迦に説法もいいところですが、下部尿路閉塞に起因するの膀胱機能障害を少しでも減らすことを念頭において、日々手術を行っています。手術後の患者さんの症状の改善もさることながら、下部尿路の閉塞を解除することで、βstimulatorやコリン作動薬を投与しやすい環境を作り出すことも大事な仕事と捉えています。前立腺肥大症の手術が「良い排尿」を作り出すためのパーツの1つであり、追加の内服治療や飲水指導、場合によっては尿道狭窄症の手術・処置も組み合わせて治療に当たっております。排尿は生涯を通じて必要不可欠な生命維持活動です。QOLも大切ですが、老廃物や余剰な水分の排出と尿路感染防御を一つのアクションで達成する活動で、奥深い生命体の機能美を感じています。紆余曲折を経て泌尿器科を専攻し、この分野の仕事に携っていて幸福を感じています。現在の仕事の環境を作り出してくれた家族・諸先輩方・勤務先の病院に深く感謝をするとともに、これからも出来るだけ長く手術を続けたいと思います。

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