医師の働き方改革アンケートまとめ
2024/10/9
【目的】
医師の働き方改革として2024年4月1日から、医業に従事する勤務医の時間外・休日労働時間は、 原則として年960時間が上限となりました(A水準)。しかし、長時間労働が必要な理由(地域医療の確保のため、臨床研修・専攻医の研修のため、高度な技能の習得のため)があれば、各医療機関が都道府県に水準の指定申請を行うことにより、年1860時間までが上限になります(連携B水準、B水準、C-1水準、C-2水準)。
日本臨床泌尿器科医会勤務医部会では医師の働き方改革後の実態調査を行い、各病院で働き方に何か変化があるのか、困っていることが出てきているのかを調査し、現状の把握と今後の対策の資料にしたいと考えました。
【対象と方法】
2024年9月27日から10月7日、日本臨床泌尿器科医会ならびに大阪泌尿器科臨床医会に所属する29病院の泌尿器科の長に下記アンケートをメールで送付し、メールで返信を依頼しました。
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Q1 病床数:200床未満、200床以上
- Q2 時間外労働上限規制の水準:A水準、連携B水準、B水準、C水準
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Q3 2024年4月以降、働き方に何か変化があったか?(フリー回答)
- Q4 医師の働き方改革後に、困ったことがあったか?(フリー回答
【結果】
期限内に26施設から回答がありました(回答率 89.7%)。大阪が14施設でもっとも多く、北海道、山形、東京が2施設、神奈川、富山、兵庫、宮崎、大分、鹿児島が1施設でした。
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Q1. 200床以上:200床未満=18:8
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Q2. A水準:連携B水準:B水準=18:1:8 (泌尿器科の水準をお聞きする意図でしたが、病院の各科の水準をお答えいただいた施設もありました。そのため重複しての回答もありました。)
200床未満の病院は、すべてA水準でした。200床以上の病院は、10施設がA水準、8施設がB水準、連携B水準でした。B水準の病院は、大学病院や病床数が多い病院が含まれましたが、病床数が多くてもA水準にしている病院もありました。 - Q3. 「変化なし」、「ほとんど変化なし」との回答が最も多く、15施設(57.7%)でした。
【フリー回答】
- 若手医師の休日のアルバイトが困難となった。
- 宿日直許可を取得している病院での当直アルバイトの調整が難しくなりました。
- 大学病院としての勤務・夜間当直とのインターバルと、外勤との調整
- 医者の数が足りない。
- 主治医2人制もありますが、スタッフが少ない当科では、結果部長がスタッフ勤務の穴を埋めている。
- 部長以上がしんどい 何とかやりくりしてますが。
- 宿直時間帯は救急断っていいんじゃないかと思っている医師がちらほらいる。
- 4月以後、夜間休日の救急要請(救急隊からの問い合わせ)が増えました。おそらく他院の救急受け入れが減ったために、夜間休日に泌尿器科が当直していて救急受け入れ可能な病院に受け入れ要請が集中しているのではないかと思います。当院の翌日以降の通常勤務に支障がない範囲で受け入れていますが、これ以上は限界と思われます。
- 〇〇泌尿器科医会では泌尿器科の二次救急制度を守ってきたが、本年4月以降は参加医療機関の減少にて、月に数日欠損日が発生している。
- 手術件数や臨時入院患者が増加すると、必然的に時間外労働が増加し、特に後期研修医の時間外労働が基準である80時間/月を超えることが多くなる。
- 病院の売り上げが落ちないように、救急を積極的に取ったりすると時間外が増える。医師の働き方改革を推進しすぎると、病院の収益が落ちるというジレンマに陥っている。
- 当院は夜間透析を連日実施しており、23時までの医師配置が必要。そのため、労働基準監督署に宿日直許可申請を行ったが、23時までという短時間であること、翌朝までの宿直ではないという理由で、夜間透析診療の時間帯の許可はおりず。日曜・祝日の日直のみ許可された。当院のような民間中小病院は、基幹病院で透析導入となった多くの維持透析患者を受け入れる施設であり、また大学病院からの非常勤医師を配置することで診療を維持継続している現状がある。その診療時間を労働時間として計上していくことは容易ではないと考えている。
- 今後心停止下提供の献腎移植がふえたら待機時間が時間外労働になるので困るかもしれません。
【考察】
今回のアンケート調査は、短期間で行われた地域も偏在した予備的なアンケートであるため、本結果をもって何らかの結論を導き出すことは難しいと思われるが、一定の傾向もあるように思われるので考察したい。
すべての勤務医に対して原則的に適用されるA水準が、18施設(18/26=69.2%)で適用されていた。B水準や連携B水準は、暫定的な特例で将来的には(2035年度末を目標に)終了するということになっている。大学病院や大病院ではB水準を適用している傾向にあるが、今後はA水準に移行していくことになるかもしれない。
4月以降の働き方改革後の変化について、半数以上の病院で変化がないという回答であった。4月の働き方改革にむけてここ数年間かけて徐々に準備されてきた施設が多いのではないかと思われ、徐々に改革に取り組んできたため4月の前後で変化を感じておられない先生が多かった可能性もある。
宿日直許可の有無で翌日の勤務が通常通りできるかできないかが決まることになり、スタッフの少ない施設では人数不足、スタッフや部長の負担などが生じている可能性がある。また当直のアルバイトが行いにくくなるということもある。その影響があるのか不明だが、これまで通りの救急体制が維持できなくなる施設や、救急を断る施設もあるようである。逆にそのしわ寄せなのか、大病院の救急の患者増、医師への負担ということもある可能性がある。
労働時間の短縮のためにカンファレンスや会議などを勤務時間内に行えるように工夫され、労働時間を減少させるなどの工夫をされている施設もあった。
時間外・休日労働が付き100時間以上となることが見込まれる医師には、面接指導が実施されるため、その人数が多い病院では面接を行う医師などに負担が生じている可能性がある。
透析医療や移植医療に携わる医師、ひいては患者に影響が及ぶ可能性も示唆される。