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第19回 日本骨盤臓器脱手術学会学術集会


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第一東和会病院 女性泌尿器科
ウロギネコロジーセンター 
竹山 政美先生
2025年5月

<勤務医通信 第4回 2025/5>

「骨盤臓器脱診療事始めから」

第一東和会病院 女性泌尿器科ウロギネコロジーセンター

竹山政美



 私が女性泌尿器科の診療を始めたのは健保連大阪中央病院で1998年から開設していた「神経・尿失禁外来」を女性限定の外来とした20021月に遡ります。

 当時、腹圧性尿失禁手術のゴールドスタンダードともされるTVTという手術が日本に紹介され女性の尿失禁患者が増えてきたことから「女性のための尿失禁外来」という名称に変更したのです。昭和大学横浜市北部病院に次いで国内で2番目の「女性泌尿器科外来」として主として女性の尿失禁の診察を行っていました。

 そんな中で女性の尿失禁を診察していると、その30%程度の方の膀胱や子宮が下垂していることがわかってきました。膀胱瘤のある症例には腟前壁縫縮を行い子宮脱のある方にはまず婦人科で子宮脱の手術を施行していただき、その後にTVT手術をすることが多かったと記憶しています。

 その頃から、子宮脱の患者も泌尿器科で治療できないものかと考え始めました。時期を同じくして2004年のICS(パリ開催)でTVM手術の報告に出会い、可能性を模索していたところ、2005年の5月に金沢で開催されたウロギネコロジー研究会(現・日本女性骨盤底医学会)にProlift TMに関する特別講演のために、米国の婦人科医D.Robinson博士が来日されることを知り、JJ社のご尽力で金沢での講演の後、健保連大阪中央病院に招請し、骨盤臓器脱に対するメッシュ手術を教えてもらうことを依頼しました。Dr. Robinsonにはその時点で日本で施行可能なTVMを教えていただきました。前腟壁、後腟壁の剥離の方法、当時使用可能だった15x10cmGynemeshPSCAPIOを用いたTVMでした。CAPIO30個ほど持ってきていただいたのとMiya hookという手術器具をいただいたのを覚えています。3例の患者を手術したのですが最初の一例はRobinson先生が執刀され、2例目と3例目は私が執刀しながら、逐一手技を教えていただきました。この日が私のTVM記念日となり忘れることのできない体験でした。その年の8月にカンザスのTopikaで行われたProliftTMのライブサージェリーセミナーに昭和大島田教授と共に参加し、TVMの要点をじっくり学んで帰ってきました。この時のMiller先生の講義が今の私のTVM手技の基礎になっています。帰国して器具を工夫して作成し、国内で手に入るraw meshを用いて島田教授と共に東と西でTVM手術を開始したのが、日本におけるProliftTVM手術の草分けとなったのです。

 20062月には25x25cmのメッシュが発売されProliftとほぼ同じ型のメッシュによるTVMが可能になり、症例を重ねて150例ほど執刀したところで、疑問点を解消したく20065月フランスTVMグループの中心として活躍しておられたCosson教授の元にhands-onを受けるためにリール大学に研修に行きました。私たちのself-cut TVMがキット製品を用いたProliftに劣らないという自信を得て帰国し、20066月の日本女性骨盤底医学会のシンポジウムで発表することになりました。150例のプロリフト型TVMの成績を発表したところ、札幌医大の第三解剖の村上教授に声をかけられ、仙棘靭帯の穿刺は肛門挙筋神経を傷害する危険性がある。一度札幌医大に来て新鮮凍結遺体にメッシュを入れる手技を施してほしいと要請され、札幌医大でカダバーを用いて手技を施したところ、メッシュの貫通した仙棘靭帯のごく近傍に肛門挙筋神経が走っており、手技に工夫が必要なことを認識しました。この解剖についてはinternational urogynecology journalに投稿しpublishされ私のPOPについての初めての論文になりました。 その後、TVM手技は広く行われるようになり、有効で安全な手技を広めるため、2007年に「TVM研究会」を発足させ、第1回研究会を東京で開催し、教育セッションのみの集会だったのですが多くの会員が参集されました。因みに、このTVM研究会は後の日本骨盤臓器脱手術学会となり、第18回学術集会が今年4月に札幌で開催されました。骨盤臓器脱手術手技にこだわった面白い学会で来年は3月に私が大会長として淡路島で開催することになっています。また2008年には基本的な手技を解説した「TVMテクニック-骨盤臓器脱メッシュ手術の新スタンダード−」という書籍を金原出版から出版しました。

 2010年には保険収載されたTVMでしたが、良い術式をもっと広めよう思っていた矢先、海の向こうから逆風が吹きはじめ次第に風速を増してきたのです。ポリプロピレン(PP)メッシュの材質と野放し状態だったキット製品の濫用による合併症と訴訟の激増に業を煮やした US-FDAによる度重なる警告とそれに続く経膣メッシュ手術に対するPPメッシュの使用禁止がトドメとなり、日本でも2009年にはTVMPPメッシュの使用が禁止されてしまいました。こういう事態を予想していたので数年前から国内メーカー、河野製作所にPOP手術に使用可能なPTFEメッシュの開発と改良を要請していたのですが、2008年にはなんとか使用できるメッシュができて、2009年には当局の許可も下りて、国内でのTVM手術は継続して行えることになったのは不幸中の幸いでした。

 ここに同じくメッシュを用いた骨盤臓器脱手術に腹腔鏡下仙骨腟固定術(laparoscopic sacrocolpopexy, LSC)という術式があり、これも1995年ころから欧米で行われてきた手術で、現在もPOP手術のゴールドスタンダードとして広く行われている術式です。日本では2012年頃に行われ始め、私は2013年から、比較的若年で主に子宮脱が主の患者さんに対して行うようになりました。2014年にはこの術式も保険収載され広く行われるようになりました。疑問点が多々ある中、2015年にストラスブールのIRCAD Franceのセミナーに参加して、この術式の創始者の1人、Wattiesに教えを乞いました。その経験から亀田病院の野村昌良先生らと「IRCADに学ぶLSCテクニック: 骨盤臓器脱・腹腔鏡下メッシュ手術の新スタンダード」というIRCAD方式のtotal mesh LSC の教科書を出版しました。現在ではロボット支援LSC(RASC)も保険収載されているのでロボットのある多くの施設で施行されています。POPは一例一例特徴があり、術式選択に難渋することも多いのですが、ほとんどのPOPRASCで治療している施設も散見されると聞くと、患者を術式に当てはめるのではなくて、術式を患者に当てはめるという原則に鑑みて、エキスパートの方にはできるだけ多くの選択肢をもった術者を目指してほしいと思うのです。

 また直ちに命関わらない病気ではありますが、手術が失敗したら命に関わる病気とは異なり、失敗したことによる手術後の不快感や痛みはずっと患者さんが生きている限り続く可能性があります。QOLに関わる診療の心しておくべき点だと思っています。また長期の経過観察とエビデンスの蓄積が重要な領域なので毎年5編程度の英語論文をpublishすることを目指しています。

 私が勤めている病院にはロボットは入っていませんが、POPのハイボリュームセンターとして年間400例を超えるPOP患者の治療を行っていて、LSCTVMNTRの各術式を患者さんの状態に合わせて選択して行っています。現在4名のエキスパートと2名の研修中の医師で診療していますが、もしこの領域に興味のある先生がおられましたらタイミングが合えば研修していただくことも可能なので、ご相談ください。また202636-7日に淡路島の国際会議場で第19回日本骨盤臓器脱手術学会総会が開催されますので、是非お越しください。

詳細はhttps://www.k-gakkai.jp/jpops2026/ まで、どうぞ

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