手術中の高田先生
病院HPより
<勤務医通信 第5回 2026/3>
「地域基幹病院として箕面市立病院泌尿器科ができること」
箕面市立病院医務局長 高田 剛
近年、地域の公立病院を取り巻く状況は、ますます厳しくなっています。人口減少や高齢化、医療ニーズの変化、医師や看護師などの人手不足、物価や設備維持費の上昇、これらが重なり多くの公立病院が経営面の大きな課題を抱えるようになりました。その結果として病床の削減や診療科の縮小、病院統合、さらには廃院や民営化が現実となっています。まさにその渦中にいた一人の医師としての感想を述べてみたいと思います。
私の在職している箕面市立病院は大阪大学医学部の関連病院です。大阪府の北部に位置し紅葉と滝で有名で、大阪市のベッドタウンとして住環境の整備された箕面市にあります。箕面市の人口は約14万人(2025年)、市の形状は縦長の長方形で多くの住民は南部の3分の1に位置する平野部に住んでいます。箕面市立病院はその平野部のほぼ中央に位置しています。
現在の箕面市立病院の許可病床数は317床(急性期病床267床、回復リハビリテーション病床50床)で、診療科は歯科を除いて25科あります。職員数は常勤職員476人、医師104人、看護師250人、医療技術職員114人、事務職員29人であります。
そして病院の歴史と将来計画は以下の通りです。
1981年7月 箕面市立病院開院
1981年12月 救急病院等に認定
1996年7月 リハビリテーションセンター開設
2003年8月 財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価(Ver.4.0)認定
2010年3月 大阪府がん診療拠点病院に指定
2010年11月 地域医療支援病院の承認
2025年4月 指定管理者「医療法人協和会」による運営体制へ移行
2031年 移転建替による新病院開院をめざしている。
箕面船場阪大前駅北側への新築移転。医療法人協和会が運営する「協和会病院」とのの整備された再編統合。病床数の増床(390床 高度急性期・急性期)・診療科の増設(計30診療科)を予定。
上記年表の通り箕面市立病院は、2025年4月に医療法人協和会へと経営母体が移り、新たな歩みを始めることになりました。いわゆる民営化という言葉には、大きな変化や不安を連想させるマイナスの響きがあります。体制が大きく変わる時期には、現場にさまざまな戸惑いや緊張感が生まれます。長く慣れ親しんだ仕組みが変わることに、不安を感じるようになります。人の入れ替わりが続くと、院内の雰囲気が落ち着かなくなります。退職者が相次ぎ、新規に入職するスタッフは確保されるものの、同じ医療レベルを維持していくことの難しさを感じる場面も少なくありません。
しかし、このような変化の時期、今だからこそ、感じることがあります。
これまで市立病院は、市民の健康と安心を支える大切な役割を果たしてきました。採算だけでは測ることのできない医療、地域にとってなくてはならない医療を担い、多くの市民にとっての拠り所であり続けてきました。その意義は、経営母体が変わったからといって失われるものではありません。むしろ、医療を取り巻く環境の変化が激しい今、より求められているものだと思います。病院の本分は一貫して変わらず「市民の命と健康を守ること」。患者さんにとって最も大切なのは、必要なときに適切な医療を、安心して受けられることです。地域の中に信頼できる医療の場があり、自分や家族が困ったときに頼ることができる、その安心を守り続けることこそが、病院に求められる最も大切な役割だと考えています。
そのように考えたとき、今の私にできることの一つは、ロボット手術を通して市民のみなさんによりよい医療を届けることだと考えます。手術支援ロボットの優れた点は今や、みなさんが周知しておられる事実です。高精細な視野、繊細で正確な操作性、手術レベルの向上、そして患者さんの身体への負担を軽減できる低侵襲性は、大きな利点です。根治手術をめざすなら、何とかロボット手術でできないかと医師が考えるのが普通です。もちろん、すべての症例が可能なわけではありませんし、機械がすべてを解決するわけでもありません。しかし、適切に用いることで、患者さんにとって大きな利益につながることを、私はこれまでの診療の中で実感してきました。だからこそ、この技術を地域のために生かし、市民のみなさんの健康を守る力にしたいと思っています。
ロボット支援手術の価値は、単に新しい機器を導入することにあるのではありません。大切なのは、その技術をどれだけ患者さん一人ひとりの利益に結びつけられるかということです。たとえば、過去に手術歴のある患者さんでは、癒着などのために手術の難易度が高くなることがあります。当科で通常行う経腹膜アプローチRARPであればe-RARPに変更もしますし、下腹部正中にディスクを設置し腸管を剥離して経腹膜RARPに持ち込むこともします。脳出血や閉塞隅角緑内障症例では、あえて頭低位5°でのe-RARPを選択します。TURP術後であれば先に経尿道的膀胱頸部マーキングを行い、それを目標にRARPを行います。RARC尿路変向も体腔内で行うことにより腸閉塞が少なくなることを知っています。術前の準備を丁寧に行い、アプローチを工夫し、術中の判断を重ねることで、ダビンチ手術を可能にできる症例があります。そして、このように全国の泌尿器科で一般的に行われている工夫が、当然この箕面市立病院でもできるようにすることが私の目標です。
また、これまで、保険適用となった泌尿器科ロボット手術の術式については、副腎を除いて即座に取り入れ院内で実施可能としました。市民のみなさんにいち早く還元していくためです。新しい治療法が保険で受けられるようになっても、それが地域で実際に提供されなければ、患者さんはその恩恵を十分に受けることができません。だからこそ、この地域で、身近な病院で、先進的な医療を受けられる体制を整えることに大きな意味があります。民営化によって組織の柔軟性や機動力が高まるのであれば、新しい治療をより迅速に導入し、市民のみなさんに届けていくための大きな力になるはずです。そして、民間の医療法人が経営母体となった元公立病院の新しい時代のモデルになればと思います。
患者さんから「このロボット手術、この病院でできますか?」と聞かれた時に、「はい。できますよ。」と言える準備を続けたいと思う毎日です

