医療DX推進における構造的課題と俯瞰的制度設計の必要性に関する提言
日本臨床泌尿器科医会 2025
日本臨床泌尿器科医会 2025
1. 問題の所在
現在の医療DX推進には、重大な構造的欠陥が存在します。
2. 制度基盤の機能不全
2.1 診療報酬点数表の構造的問題
診療報酬点数表は、
- コード体系の曖昧性(枝番の親子関係が非明示)
- 算定条件の暗黙知化(通知・疑義解釈の散在)
- 改定差分の追跡困難性(人力比較への依存)
- 国際標準(HL7 FHIR、SNOMED CT)との非互換性
この結果、全国で年間推計3,000億円超の人件費が「
2.2 技術導入への波及効果
非構造化された点数表の上に構築される各種DXツール(
- 人間による最終確認の恒常的必要性
- 診療報酬改定ごとのベンダー依存型再学習コスト
- 算定ロジックの属人化と継承困難性
つまり、制度基盤が機械可読でない限り、
3. 医療機関の経営的制約
3.1 投資余力の欠如
日本の病院経営の実態は、
- 平均利益率:2〜3%(600床規模病院の半数以上が赤字、)
- 新規IT投資の原資:極めて限定的
- 診療報酬構造:業務効率化そのものへの報酬なし
例えばAIスクライブ導入(医師20人規模)
3.2 部分最適の罠
現状の医療DX製品の多くは、特定部門・
- 医師の記録時間短縮→看護記録との非連携による二重入力発生
- 検査予約システム刷新→
外来受付との情報断絶による患者待ち時間増加 - レセプト点検AI導入→確認作業増加による事務負担の逆増
部分最適の積み重ねが全体最適を阻害するという、
4. 構造的問題の本質:制度と技術の分断
上記の問題群が示すのは、以下の三層における断絶です。
- 制度層:非構造化された診療報酬体系
- 技術層:個別最適化された各種DXツール
- 運用層:全体設計なき導入を迫られる医療現場
これらが統合的に設計されていないため、
5. 提言:俯瞰的制度設計の実現に向けて
5.1 制度基盤の再構築
提言1:診療報酬点数表の構造化・機械可読化
- FHIR準拠のXML/JSON形式による公開
- 算定ロジックのルールエンジン化
- Gitリポジトリによる改定差分管理
- Creative Commonsライセンスでのオープンデータ化
提言2:国際標準への対応
- SNOMED CT、ICD-11とのクロスマップ整備
- 医療情報の国際的相互運用性確保
5.2 全体最適型の技術導入プロセス確立
提言3:病院業務全体を俯瞰した標準インターフェース設計
- 電子カルテ・レセコン・AI支援ツール間の標準化API整備
- 部門間データ連携の必須要件化
提言4:投資対効果の可視化と成功事例の体系的蓄積
- 財務データを含む導入効果の公開義務化
- ベストプラクティスの共有基盤構築
5.3 段階的実装ロードマップ
利益率2〜3%の病院経営では試行錯誤の余裕がありません。
- 2026年:診療報酬点数表の構造化試行版公開(
すでに時間的に無理があると思われますが) - 2028年:FHIR完全対応版への移行
- 2030年:標準化された技術基盤上での本格的DX展開
6. 結語
医療DXは「あれば便利」な付加機能ではなく、
政府・医療界・技術ベンダーの三者が、この構造的問題を共有し、

