2025年10月
泌尿器科における自由診療の現実と課題
泌尿器科の自由診療は、近年その領域と性質が多様化している。大きく分けると、①科学的根拠の乏しい高額医療、②医療よりも美容・快適性を目的とする診療、③制度的理由から自由診療にとどまらざるを得ない先進医療の三つに整理できる。
第一の「エビデンスのない高額医療」には、再生医療やエクソソーム点滴などがある。特に男性機能改善や不妊治療を目的とした自由診療は、十分な臨床試験が行われていないにもかかわらず高額で提供されることが多く、医学的妥当性よりも商業的側面が先行している現状がある。
第二の「医療とは異なる美容診療」は、包茎手術、陰茎形成、亀頭増大などの性器整容手術やAGA・ED治療が中心である。これらは生命予後には関与しないが、心理的・社会的QOLの向上を目的とする点で一定の意義がある。しかし、広告過多や誇大表現により、患者の不安やコンプレックスに訴える形で需要を創出している例も見られ、医療倫理上の課題が残る。また、薬剤の提供においては、オンライン診療のみで個人情報の確認も無しに薬剤を郵送するような事例が知られている。
第三に、「自由診療で行わざるを得ない未承認の高額医療など」がある。これらは明確なエビデンスがありながら、制度上の制約や対象条件の狭さから保険診療に含まれない。PSMA-PETといった画像診断などはこれにあたる(2025/11現在では保険適応あり)が、結果として、医療的必要性が認められても患者が高額負担を強いられるという不公平が生じている。
こうした状況のもと、一定の科学的根拠がある先進医療については、保険診療との「2階建て」を容認せざるを得ない現実がある。例えば、PSMA-PETに関して言えば、海外においてはすでに確立された医療技術として広く用いられており、完全な自由診療として放置するには倫理的問題がある。保険適用までの過渡期においては、基本的検査・麻酔・入院費などを保険給付とし、先進技術部分を自費負担とする仕組みが現実的である。
もっとも、2階建てを容認することは医療の階層化を助長しかねず、その運用には厳格な透明性が必要である。泌尿器科の自由診療は、患者の希望と社会的規範、そして制度的公正の交差点にある。医療の自由化が患者の幸福追求につながる一方で、商業化による信頼喪失を防ぐためには、エビデンスに基づく評価体制と倫理的ガバナンスの強化が不可欠である。